作話

わいせつ石膏の男

夏、モーテルの駐車場に一台の車が停車する。日本車である。運転席からは一人の東洋人が降りて来る。白いポロシャツにワンタックの茶色いチノパンを履いている。頭にはサングラスと、かぶり疲れてよれたハットを深めに被っている。 助手席から降りてきたのは…

涙で打ったうどん

たしか探偵ナイトスクープだったと思うが、昔「涙でうどんを打って食べたい」という依頼があった。探偵は石田靖だったと思う。 ロケのVTRに切り替わると、二人の女子大生が写っていた。少し前だと、いわゆる「スイーツ」なんて呼ばれていたような見た目の若…

活動組体操

運動会にて、第5プログラム「組体操」 《ピッ》 グラウンドの四隅からカラフルなハチマキをつけた子どもたちが勢いよく走り出し、四つの塊がグラウンド中央に並んだ。 「ただいまから第5プログラム、6年生による組体操を始めます」 アンビエント系のチープな…

自己実現する狂疾

――村田氏は独自の方法で現在の哲学を身に付けたとのことですが。 そうですね、ちょうど10年か11年くらい前だと思うんですけれども、当時勤めていた会社が、まあコンサル系の会社だったんですけども、本当にうまくいかなくて自殺も考えていたんです。でも死ぬ…

なきがらの塔

かつて通っていた小学校には大きなシイの樹があったのだが、少し前に伐採されてしまった。 小学校の隣には老夫婦が住む一軒家があった。小学校の庭に植わっていたシイの巨木は、ちょうど老夫婦の家の南側に立ち、家屋の全体を覆い隠していた。このことでしば…

旧世界の車窓から

彼女と家に帰る途中だった。 午後6時過ぎに大学を出てバスに乗ると、運よく降車客と入れ違いで、二人並んで座席に座ることができた。最近彼女と会うときは、交代で夕飯を作るのが決まりになっている。その日は私がホストで夕飯を作る日で、ビーフシチューの…

嘘八百夜

脳トレとして今から嘘を50個書きます。 1)鼻くそが水を含んで膨張したのが痰 2)ホワイトデーを最初に考えたのは橋本龍太郎 3)エイトフォーの名前の由来は、両脇両足の4箇所に臭いの元であるアポクリン腺がそれぞれ8個ずつあるから(8x4) 4)ブラマヨ小杉の実家…

理想気体

部屋に案内されたとき、そこに充満しているのが本当に空気なのか疑うことはよいことだ。 近所のお気に入りの古着屋のバイトに応募し面接に来たはいいが、格好ばかりついて狭苦しい部屋に入れられて10分ほど、ようやく出てきたのは童顔の男で、やっと面接が始…

AM2:36

部屋で寝ていると、階下が騒がしい。 住んでいるアパートの一階にはローソンが入っていて、夜中に非行少年が騒ぐことがよくある。だが今日は少年ではないらしい。だいぶ年を食った、四五十を超えたくらいの男が怒鳴り散らしている。しかもクレームをつけてい…

耳なし芳一 THE EXTACY

今は昔、阿弥陀寺というところに一人の盲人が住んでいた。名は芳一といい、もとは貧しい琵琶弾きであったが、その芸の達者なのを和尚に認められ、寺に引き取られたのだった。幼き頃から琵琶の弾き語りに長け、こと平家物語の中、壇ノ浦のくだりを語る妙たる…

情報死者たちのダンス

sengoku38というアカウントから尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に関する映像が投稿され、一時ネットは騒然となった。情報のリークがマスメディアによるものからインターネットへの投稿によるものとなったことで、多くの国民が日本のジャーナリズムの大きな変革…

ある少年の安寧

ぼくはいやなことがあったり、なにか心に取り除けない暗がりがあったりするときは、こんな想像をします。とても黒くて大きな鉄球が、すごい速さで自分に衝突する。イメージするそれは、速さの点では新幹線でもよいのですが、周りに人がいるのでいけません。…

むかしむかしあるところのチェーン・リアクション2009winter

昔々あるところにアキレスという大層足の速い英雄がおりましたが、貴様は亀に追いつけぬと指を指されて宣告されたため、実際に競ってみれば話ははやいと競争することにしました。丘を越えたところにある町に亀を放ち、アキレスから逃げるように亀に言いつけ…

例の空女祭り

東京上空の大気を掻く軽飛行機が、七人の老女を運んでいく。全員がネットで知り合った仲であって、「リコリス」のメンバーである。 リコリスとは彼岸花であった。地を衝いた人間の血を表すという。 −−− 実質高齢化率34%の現代、かつてケータイに依存した少女…