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シンクロ

絵を描くという作業はその創造性の如何に関わらず、没頭が過ぎれば人を惑わせるものなのかもしれない。先日ビートたけしも、絵を描いているときに、集中すると涎が垂れてくると言っていた。しかもその瞬間が嬉しいのだ、と欣然たる様子で今田耕司に力説していた。
私は顔面が、描いている絵と同じように変形してしまう癖がある。口を尖らせた顔を描くと知らぬ間に燦々と輝くタコ顔、またアントニオ猪木を描けばたちまち現れる下顎プロミネンスに昔から悩まされている。数学の授業中、ふいに失われた数式への興味を満たすため落書きを始めようものなら、無意識のうちに発現したヒョットコを周囲の友に曝すこととなる。
自宅で勉強の合間に落書きをするときも、この謂れなき表情筋の同調、イメージとリアルの驚くべき馴致により、顎、頬、眉、その他素人が描きがちな顔のパーツ全てが影響を受け、明らかに呼吸しにくい形体をなすまで気付かないことがある。
涎が垂れるのも顔が歪むのもちょっと普通じゃない。もちろんこれは自分を特別視したりビートたけしと同列に語ろうとしているような意味ではなくて、少なくとも脳がすっごい馬鹿になっているということだ。マンションの壁に落書きする心理も多分同じなんだと思う。彼らはスプレーの塗料の揮発性溶剤も相まって、とろける感情の中で静かに泳ぐ。