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インストゥルメントと呼ぶという


オシャレ人は文房具にもこだわる。これは勝てない。そればかりか、たまに薄ら寒くなるほど執着する人がいる。
そんな中で、私の唯一自慢できる文房具がこれだ。長年使っていたコンパスが何年か前の数学の授業中に崩壊したので、祖父にいいコンパスは無いかと聞いたら棚の置くから引っ張り出してきた。いい物だった。道具ではなく、寧ろ作品だった。この無駄だらけのフォルムを見なさい。指が痛くて長時間持てたものではない。また、ケースを空けた瞬間、刹那の内に広がる芳醇な酸化鉄の匂い。何度も使って曲げているうちに金属疲労と磨耗によって忽ち使い物にならなくなることが一見して予測できる古さ。デリケートなのか、その風格によってか、兎角それに触れ、使用・製図することを頑なに拒むかのような完成度の高さのせいで、私は結局これらを使うことがなかった。


トランスフォーマーという映画が公開された。作品内でロボット生命体と呼ばれているロボたちも、このコンパス同様、随所に鋭角を持っている。シャキシャキと変形する様も無理矢理感が満載で良い。男のロマン、などと陳腐な表現をしたいわけではないが、ガンダムや外車が、特に男性に愛され続けているのは、何かそこにオトコを魅了する要素があるのではないかと思えてならない。人にどれだけ非合理的だ、不便で無駄だらけだと罵られようが、脳の深いところが熱くなるのは誰に止めようも無いのである。中古車屋に並ぶクライスラーの車や仮面ライダーに登場する敵を見て、胸が躍るのは私だけではあるまい。
遊び心というのは、一旦冷静さのスイッチを切ってしまうことなのだろう。このコンパスも、冷え切った頭で考えれば使い物にならない金属ゴミと言えるかも知れない。だが手に取った瞬間、作り手の童心を掌に見るのであり、その著しい実用性の無さに反比例して、使ってみたい気持ちもまた、濃く熱を帯びるのである。