17-18

受験に向けて生活リズムの改善。11時30分就寝、5時30分起床。1時間30分のサイクルを守って良い目覚め。氷砂糖を砕いて一欠口に含むと、脳に意識が染み渡るのを感じる。犬を連れておよそ2kmの散歩道を行く。朝日が肉体を貫通する。一気に五蘊の勢いが増すように感じる。超巨大カシューナッツに毛が生えたような古墳を一周して家に帰る。6時30分。数学の宿題に取り掛かる。三角関数を捻り潰す。8時30分。親が出勤し妹が登校。今日はまだ夏休みではないが学校は休み。一人になった家でスペイン風オムレツをフライパン一杯に作って頬張る。夏太りが咫尺の間に迫っている。
じきに18歳になることをふと思い出す。
夏、全裸で川を泳いだ少年がいたあの日。幻のような18歳が遥か彼方にあった。謎の思春期というゾーンに突入し、制服を身にまとって勉強と恋愛とスポーツに打ち込む18歳。そして今は?甘酸っぱい思い出は無く、せいぜい胃から酸っぱい物が込み上げる程度。思春期、反抗期、どれも自分にはピンと来ない。九九が覚えられずに泣いていたのが10年前だとは俄かに信じがたい。
18歳になったとして何も変わりはしない、はずだ。18年間宇宙が私を殺さないでいてくれた、そのことが明快に判明するだけだ。そう思う一方、その日を格別と認めぬわけにいかないのは、18歳など永遠に訪れまいと信じていた自分がすぐ後ろで間抜けな顔をして佇立しているからである。
18歳は迎えるものだ。時間が来れば与えられる。やってくるから迎え撃つ。18歳が私になる。そして18歳が課せられる。それは17年を棄てることである。
あの日思い描いた像は、決して理想の私ではなかった。あくまで凡百の「18歳」を描写したのだ。返り討ちにしてやる。私は私だ。現在に甘んじる意味でなく、あくまで平均の首を圧し折る意気込みである。三角関数は役に立たないと、意味も分からず息巻いていた少年よ。私は今、三角関数の屍の山に立っている。