ショーン先生の本場のイングリッシュ

中学校のときにALTとしてショーンというカナダ人の男性が学校に来ていた。髪は赤みがかって目は青く、肌は白かった。絵に描いたような白人で、男前だった。当時担任が英語の教師だったこともあって彼は教室によく遊びに来ていて、私たちも覚えたての英語でよくわからない会話をしていた。会話が成立しなくなってくると、とりあえず親指を突き出して大声で「Yeah!」。これで世界は一つになる。なれたのだ。少なくとも僕らの世界は。


ある日彼が昼休みに弁当を持って教室にやってきた。彼はちょうど私の隣に座った。私は特に英語が得意だったわけではないが、友人たちの中では私がショーンの通訳のようであったから、たどたどしい英語で会話をすることにした。
ショーンはタッパーを机の上に置いて、蓋を取った。私たちは一斉に中を覗き込んだ。


正直、何が何やら分からない、ペースト状のものが入っていた。


唖然とする私たちを尻目にショーンは黙々とスプーンで例の物を食べ始める。


「Is this tasty?」「Yes!」


なるほど。おいしいらしい。


「What's this?」「ゅリ」


・・・「ゅり」?


「Pardon?」「Ah...ゅり」


中学生お得意のパードゥンも意味を成さない。何度聞いても「ゅり」なのだ。


カナダに伝わる伝統料理か?はたまた精力増強の為の得体の知れない薬膳か?健康食品か発酵食品か?イギリス人の舌はバカだといわれるがアングロサクソンは毎日こんなグロテスクなものを食っているのか?確かにトムとジェリーで振舞われる料理はポテトサラダに肉汁をかけた代物だったが、まさかアレが人の食うもんだとは、そしてこれが今になって眼前で見せ付けられるとは!目を背けつつ感動し、引きつる顔面の開いたままの口からは小鳥のさえずりが聞こえる。


「・・・だれか食ってみろって」
友人の一人が言った。いやだよ。誰もが顔でそれを示す。
じゃあジャンケンで負けた奴が。よし。


こういうときに負けるのはいつも私だった。私は英語で彼に言う。「Can I eat it?」「Sure.」ショーンがスプーンを差し出す。
・・・これくらいどうっってことないさ。修学旅行でピータンも食わされたじゃないか。見た目に騙されちゃ駄目だ。経験上、こういうのは案外無味無臭なことが多かった。現にショーンはむしゃむしゃ食ってたしな。日本人の舌は敏感だというが、ジャンクフードに毒された俺たち平成生まれの中学生なんだぜ、臭豆腐だってがぶ飲みしてやらあ。


ショーンが気を悪くしないように、あくまで平常心で、普通の顔で、味を確認したら飲み込めば良い。そう思ってスプーンを口へ運んだ。


ただのcurryだった。