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詰め寄り熱血村

『生きろ!』とだけ、赤のバックに黄色のペンキで書かれた分厚い板を数枚掲げ公園に居座る集団が見える。


「我々は!職を失っても!行き場の無い情熱だけ!ありったけ君たちのために!」


「今日の!炊き出しは!カプサイシン雑炊!今日一日を!フルに生き続けろ!」


失業した熱血漢が、特に何か抗議をするでもなく、ただ一心に道行く人を励まし続けている。この活動が何か彼らに利益をもたらすとも考えがたいが、慈善事業にしては当事者の身なりがデロリとだらしない。どうも彼らに余裕は無い。噴水のピカピカと弾ける粒がモザイクになって、声を張る男たちの大袈裟な動作の一つ一つを曇らせる。拡声器から走り出した声がコンクリートに反響して、抵抗の大きい朝の空気を何度も痛めつける。僕と、道行く人々は、なるべく関わらないように自らどこかしらへと吸い込まれてゆく。


彼らは失業者でもない一般人を引き止めて大声でなにやら話をし始める。そうやって不運にも捕まったスーツを何度か目にした。説教を受けているのか励まされているのかは分からなかったが、多くの人はいつものように通り過ぎてしまいたいだけなのだから、歩みを妨げられるだけでも不愉快なはずである。


今日もいつものようにその公園の前を歩いていた。相変わらず喧しい。警察は何もしないのだろうか。眠い。そういう取りとめもないことを頭の中で数回こだまさせる。すると目の前に凄まじい体臭の人間が飛び出してきた。目の表面が縮むような刺激、鼻腔を散々裂いてゆくような気体を撒き散らし、ヨレヨレのスーツを着て駅の方へと歩いてゆく。彼は公園から出てきたようだ。熱血村の人間だろうか?そう思って公園の仰々しい基地を一瞥する。


増えている。看板の数も規模も人数も、少しずつだが増えているように見える。ジャングルジムとすべり台は、もう子供が笑いあう場所とはなっていなかった。体格の良い、恐らく肉体労働に従事していたと思われるような男たちが、空々しい笑みと暴発する喉を披露するだけの場所である。脳の、さっきまで眠気のいた場所に、怒りが入り込んでくる。良い年した大人がこんな下らないことを・・・ そう思って通り過ぎようとする一瞬、すべり台の下に一人の若い女性がいることに気づいた。俯いて地面を見つめ続ける彼女は髪は長く伸ばしているが広がって駱駝の尾より汚く、顔は少しやつれている。服は今風の、若い子が好んで着そうな服だが、ブーツには跳ねた泥が灰色の図を描いているのが見える。彼女はいったい・・・


「お兄さァん!」


耳元で叫んだのは優に190センチはあるような大男だった。


「熱血村にィ!興味がおありですかァ!」


そう言い終わらない内に腕を掴まれて中に引きずり込まれる。イエスとノーは殺されて、孤独な僕は大男達の輪の中に投げ出された。






<続かない>