美人気功師と百人の汁男優(思いつきで前編)

齢三十にして豊かな顔貌をもち、中国で六年を経て気功を体得した女性がいると聞くやいなやアダルトビデオ販売会社を経営する松谷の頭は一閃を受けた。人を遊ぶように倒す術が本当ならば、それでアダルトビデオを作りたいとの猛き望みを抱いた。彼女に連絡を取る。もしもあなたの気功が通用するものであるならば、性行為はしなくても済む、と。すると彼女は電話口に悩みの息をかけることも無く、出演を快諾した。
松谷はまるで気功というものを信用してはいなかった。もしも全くの出鱈目だとしたら尺が持たない。最悪の場合男優に演技をさせよう。しかし気功の達人が「素人」とはこれいかに。松谷はその冗談に自分で可笑しくなってしまったが社内でダンディズムを標榜する手前、吊り上った口角を右手で揉み、筋と神経をほぐして平静を装った。ちなみに松谷はその日の早朝に自慰を行ってそのまま出社したが、彼はサウスポーであったので彼の口周りの衛生に問題は無い。
撮影は野外であった。郊外の拓かれた山の上、柔らかな土と繁った木々に満ちていたが、北西の景色は重機で削った断崖に沈んでいた。午前十時、そこには既に数十名の男優たちが黒のブリーフ一丁のみを飾り、その気功師の到来を待っていた。しばらくして松谷が到着するとスタッフがまず素早く頭を下げ、察した男優たちも気だるげに会釈を済ます。松谷が現場に現れるのは珍しいことであった。
噂に彼女の美貌を聞いたとはいえ、所詮は気功師、それも中国へ六年も行くような物好きの女のこと、引き止めるものも居らぬようなしこめか、余程気の強い鬼のような女に違いない。松谷はそう考えていた。この考えについてはその場にいた男優の中にも仄かに察したものがいた。


予定に少し遅れて女が着いた。その場にいた男たちが野次馬の目で一斉に彼女を覗き込んだ。そして同時に山に静寂が訪れた。誰もが瞼を剥き、喉を弾いた。
着替えを包んだ風呂敷のみを持って現れたその女は、纏った白装束に劣らぬ白い肌と、冬の濃霧に浮かび上がる白樺の梢のように静脈の透けた腿を振って近づいてきた。次第に目を上に遣れば彫刻のような勾配に優しげな可塑性を包んだ乳房が揺れ、鎖骨と首筋が存分に風を切るように開かれたおとがいはそれだけで女を語っていた。その上には重力と大気を捕まえて散る髪、髪の隙間からは伏した目とゆるく結んだ口許が覗く。ここまでの目の運動はその場の全ての男たちの心肺を十分に殴りつけた。彼女を抱きたい。それまでの乾燥した興味に、みずみずしい欲望が染み渡った。




(もしかしたら)後半へ続く