俺はコンバース・オールスターが憎い

"CONVERSE ALL STAR"


コンバースといえばこれ、というくらい有名なスニーカーだ。小学校から中学に上がる時分にお洒落に目覚め始めた少年少女がよく履いているのもアディダスかこれだ。とにかくかっこよくて、眩しかった。中学に上がって制服を着るようになれば、余計にシューズは光を浴びる。


私も履きたくなって買いに行った。靴屋に行ってコンバースを探すといくつものモデルがあった。ジャスコの靴売り場しか知らなかった俺にとって、清潔感あふれる店員が丁寧に靴を選んでくれるのがとても恥ずかしく、また嬉しかった。


私は昔から足が大きいほうだったから、28センチのオールスターを探してもらい、履いてみる。するとどうだろう、靴ヒモを最大まで緩めても入らない。次は29センチを試すが、これもまったく入らない。そして30センチを試すと、ようやく窮屈ながら入るという程度。それくらいコンバースオールスターの規格は幅が細いものだったし、俺の足の骨格は異常に横に大きかった。30センチを超えるものを履くとまるで道化の靴のようにつま先の余りが大きくなってみっともない。かといって我慢して小さいものを履けばよかったのかというと、そうもゆかぬ事情があった。以前足に合わないスニーカーを履いて陥入爪を発症したため、窮屈な靴を履くのは避けていた。結局コンバースのオールスターは諦めたし、今でも物理的に入らない。


あの頃に比べれば体型も比較的スリムになって、標準的なファッションをたしなめるようにはなったが、靴ばかりは今でも規格外のものを選ばされている。モデルによるので一概には言えないがリーボックとナイキとコンバースは私にとって「ありえない」細さで、中国の纏足の文化はコンバースの陰謀ではなかったのかと本気で思っているし、私がもしKGBだったら拷問器具にオールスターを採用した。


ダイエットやスキンケアなどの努力を惜しまなかったとしても、最後までできないお洒落がコンバース・オールスター。なんという不条理だろう。なんという残酷だろう。私は今までずっとそう思っていた。


だが、実は私は昔からこんな不条理を熟知していたのだ。子どもの頃から何度も聴かされたことがある。


シンデレラの靴だ。


シンデレラにしか履けぬガラスの靴。意地汚いシンデレラの姉たちはガラスの靴を履くために爪先や踵をナイフで切り落とした。姉たちは結局流れ出た血でそれを王子に見破られるのだが、シンデレラではない者がガラスの靴を履くには、本来それくらいの代償が必要なのだ。


コンバースのオールスターは現代のガラスの靴だ。そして私はシンデレラではなかったから、オールスターに拒まれた。オールスターを履きこなしていた友人たちと違って、女子から嫌われたり、「初めて会ったときは頭悪そうな顔だと思った」と複数人から言われたり、職務質問にあったりするのは、私が「オールスターを履けない側の人間」であるからなのだ。
きっと私が知らないだけで、世の男女は他人の足を見てオールスター適合性を見ているのだろう。そして陰では「あいつはどうもオールスターが履けないらしいぜ」「まじで?キモ・・・」などと言われているのだ。就活のときも陰謀がはたらくため、私が革靴で面接に向かうと私以外が全員オールスターを履いていて白い目で見られるのは明白だ。更に酷いのは結婚のときである。結婚に際して相手の両親に挨拶へ向かい、「娘さんと必ず一緒に幸せになります。どうか結婚をお認めください。」などと頭を下げようが、土下座の背後に回りこまれて足の裏をジロリと覗き込まれ一喝、「こんな馬鹿げた足の奴に娘はやらん!」と言われ、挙句履いて来た靴を引き裂かれ「お前はこれでも履いておれ」と目の前に垂らされるオールスターに無理やり爪先をねじ入れ、踵だけびしょ濡れにしながら帰ることになるのである。