成人の日一部始終

前日午後8時

下戸の父が私の成人祝いのために保管してくれていた「百年の孤独」という麦焼酎をいただく。樽の香りがほのかにうつっており、良い味だった。ほろ酔いの状態で就寝。

当日午前8時

起きて顔を洗い犬の散歩をする。相変わらず拾い食いをするので困る。

午前10時

友人含め三人で、うち一人の友人の車に乗って会場へ向かう。彼は就職して自分の車を持っていた。もう一人の友人はここ一年で声優オタクに変わっていた。会場に着くと平和推進団体の初老の女性に核廃絶のための署名を募られ、書く。家の近所の洋服屋の親父が写真を取りに来ていた。町内の新成人を撮影している。本心からか建前かは分からないが、彼はこうした地域の人々への親切が得意だ。そこを女子の一人が横切るが、リーゼントの彼氏を連れていた。
開式の時間が迫ると人が増えてきた。私たちは早めに会場に入って、座る。開式の段階ではあまりホールの席は埋まっていなかったが、徐々に満席に近くなっていく。市長の話が始まると前列のあたりにあまり素行の良くない連中が現れる。その中から白い紋付羽織袴と金髪の青年が叫び始めると、どうも中学の旧友であることに気づいた。彼らは結局警察沙汰になることはなかったが、冷や冷やした。

正午12時

閉式。会場の外は人でごった返している。その中を歩き回って、中学や高校の友人を訪ねる。一人名前が思い出せない人がいたが、多分中学の部活関係の人間だったように思う。かつての女子はもはや女子とは呼べぬほど大人びていた。自分の感覚としては振袖とすこし濃い化粧で特に魅力的になっているわけでもなかったが、成人式の記号や意味が胸を躍らせる。
そのあとは友人らと会場近くの和食さとに立ち寄って昼食をとった。正月から続く連日の暴飲暴食からか、かき揚丼が胃にもたれる。皿を下げに来た女の子の店員に見覚えがあったのだが、店を出る直前に高校の弓道部の後輩だと思い出した。

午後14時

一時帰宅。スーツを脱ぎ捨て茶を飲み、寝る。夕方18時からの同窓会に向けて、寝る。

午後18時

焼き肉屋に集まる。私はビールで乾杯する。成人式でヤンチャをした二人が私の前と横に座る。一人は石材屋で働いており、もう一人も肉体労働に従事しているのだという。彼らと話していると、それなりに考えて行動しているのが分かる。もう少ししたら所帯を持って暮らしていかなければならなくなる。そうすると金の使い道や行動も制限される。だから今は有り金を目一杯使ってとにかく生きたい様に生きる。私はそういう風に読み取った。だからといって成人式で暴れるのは許されないが、彼らの言葉は面白い。全く知らない世界、暴力的で不条理で愚かしい世界だが、刹那的な生き方には憧れるところがあり、シンプルな語りに引き込まれてしまう。それからは正月三箇日は全部ソープに行った話や、石材屋の先輩が握力85kgあるという話や、私の童貞をどうするかだとか、そんな話をした。途中焼酎が焼肉のタレにすりかえられていたり、焦げたウインナーと各自のペニスのどちらが黒いか比べたり、良く言えば変わらない仲と悪く言えば成長しない気質を、その全員分金網に投げ込んで、大量のビールで嚥下した。

午後10時

一次会は終了。そこからは悪友とは別れ違うメンバーでカラオケに行く。ストレス解消のため、みかんのうた(SEX MACHINEGUNS)、人間はもう終わりだ!(真心ブラザーズ)、コバルトブルー(THE BACK HORN)、ROLLING1000tOON(マキシマムザホルモン)、東京紅葉(野狐禅)など喉への負荷が高い曲ばかりワザと歌い、午前2時ごろにはすでにぐったりとしていた。前述の声優オタク化した友人はアニソンばかり歌っていた。

午前4時

解散。友人の車で送ってもらうことも考えたが、歩いて帰ることにした。家までは時間にして1時間以上あるのだが、この町の景色をじっくり見たいと思ったので自分の足で帰った。
私の家は、例えば10年に一度村の娘を生贄に奉げる村や、地図から消えた屍だらけの村や、山の主を目にしたがために精神を病む子どもが定期的に出る村なんかから連想されるような、閑散とした村々を寄せ集めたところの真ん中辺りにある。
7ヶ月ほど帰らなかっただけで、知らない建物がいくつかあったし、知っている建物がなくなっていた。強い北風の中雪が降り始め、顔が硬く縮む。道路や屋根に雪が積もり始める。人々は寝静まって、街灯もない。トラクターのタイヤの溝に挟まった、馬糞と藁と土の混ざったものがアスファルトの上で凍り付いている。歩くうちに明かりがだんだん少なくなってきて、山の向こうの白みと雪、遠くの高速道路がやけに頼もしくなる。ダウンジャケットの肩に雪が積もり始め、やがて足下に完全な暗闇が落ちたとき、町が死んでいるように思えた。今日はいろいろなことがありすぎて、いろいろなものが変わりすぎていたから、そう考えてしまっているのかもしれない。
見渡すと夜の闇と雪の交じり合った、不吉な波長の灰色が田園風景を飲み込んでいる。
歩いていたあぜがだんだんと消失してゆく。
そこを抜けるまでに五回、凍結した路面で転倒して、そのまま家に帰った。