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耳なし芳一 THE EXTACY

今は昔、阿弥陀寺というところに一人の盲人が住んでいた。名は芳一といい、もとは貧しい琵琶弾きであったが、その芸の達者なのを和尚に認められ、寺に引き取られたのだった。幼き頃から琵琶の弾き語りに長け、こと平家物語の中、壇ノ浦のくだりを語る妙たるや、勝るものがいなかったほどと言う。
さて、生肌が湿気て闇に溶けそうな、真夏のとある蒸し暑い夜。和尚が法事で寺を空けている間、芳一は一人琵琶の稽古をしておった。すると、一人の武者が芳一の元をおとずれてこう言った。
「芳一よ」
「はい」
「私は近くに住む、或る高名なお方に遣われてここに参った。そのお方は、そなたの合戦物の語りがまことに素晴らしきことを耳にされ、聴いてみたいと仰られた」
芳一はまだ無名の琵琶弾きであったから、このことを大変嬉しがった。
「屋敷へ案内いたすから、私の手について参れ」
芳一は突然のことに浮かれながら、武者の大きな手をぎっと握り締めて屋敷へ歩いた。芳一が屋敷の中へ通されると、そこには大勢の人が集まっているようであった。
「芳一よ、さっそくだが、平家の物語を語っていただきたい」
「はい」
「そうじゃ、壇ノ浦のくだりを吟じて見せよ」
「かしこまりました」
芳一が演奏を始めると、その屋敷にいたものは皆息をするのも忘れて聴き入ってしまった。そして合戦の最後を語るにつれ、あちこちからすすり泣く声が聞こえ、芳一が演奏をやめてもしばらくは止むことがなかった。
しばらくすると、先ほどの武者がやって来て言った。
「ごくろうであった芳一よ。殿はそなたの琵琶をいたく気に入られた」
「ありがとうございます」
「芳一よ、もしそなたが良いのなら、これから六日の毎夜、ここへ琵琶を聞かせにきて欲しいと殿は仰られる」
芳一はしばらく考えたのち、かしこまりました、とこれを引き受けた。
「それから芳一よ、そなたが寺へ戻っても、このことを誰にも話してはならぬ。よいな」
「はい」


芳一が寺へ帰ると、和尚に見つかってしまった。和尚は昨夜のことを問いただしたが、芳一は口を閉ざしたままであった。芳一がこのようなことを見せたのは初めてだったため、和尚は訝しく思った。そこで寺男たちを呼び、芳一が再び夜に寺を出るようなことがあれば、その後をつけよと申し付けた。
その晩、芳一が忍んで寺を出ようとしていたため、寺男たちはあとをつけた。すると芳一は一人平家の墓のあるところに立ち止まって座り、琵琶を弾き始めた。すると、なんと辺りにぼうっと鬼火が宿って、芳一の周りを取り囲んだではないか。寺男たちは慌てて芳一の元へ駆け寄り、力任せに寺へ担いで帰った。


寺へ戻され和尚に問いただされた芳一はようやく昨晩のことを話した。
このままでは芳一が取り殺されてしまう、と和尚は言った。芳一は恐ろしく思い、和尚に助けを求めましたが、あいにくその夜は和尚が法事であったので、芳一についてやることが出来ないと言う。
「そうじゃ、確か納戸に縦横六尺の麻布があったはずじゃ。そこに経を写してくるまれば何とかなるかもしれん」
他の寺男と芳一は、名案だといって麻布を取りに行こうとした。すると和尚が突然大きな声を上げて言う。
「待て、麻布では目が粗い。隙間から芳一の肌が見えてしまう。もはや芳一の肌に経を書くしかなかろう」
「しかし和尚さま」
「これしかもうないのだ。ここにある筆で最も上等の、穂先の柔らかい筆を持ってきなさい」
やけに強い語調で言うので、寺男は慌てて部屋に戻り、新しい細筆を取ってきた。
「ここは小さい寺ゆえ、経を全て覚えている者はわしだけだ。わしが書いてやろう」
そういうと和尚は寺男たちを閉め出し、芳一に背中を見せよと言った。芳一が法衣をはだけて背中を見せると、しばらくの静寂のあと和尚が墨をする音が聞こえてきた。
和尚が肩の辺りに筆をおろし、経を写し始める。筆は徐々に下へ続き、やがて腰の辺りにさしかかると、芳一はくすぐったくなって我慢が出来ず、すこし身をよじった。
「これ芳一、筆が乱れる。じっとしておれ」
「はい」
やがて背を書き終わると、次は足となった。芳一は言われるがまま下も脱ぎ捨てて丸裸になった。しばらくして和尚が、座ったままでは書きにくい、じっと背を伸ばして立っておれと言う。芳一がきっ、と背筋を伸ばすと、腿の前に筆がおろされ、また経がつらつらと下に続く。
しばらくすると、始めは上から順に書かれていた経が、急に足の指の間に書かれたり、膝の裏に書かれたりするので、そのたびに芳一の体はぴくぴくと弾けた。
「これ芳一、じっとせんか」
「申し訳ありません。しかし私は目が見えぬゆえ、思いもよらぬ場所に筆を置かれると驚いてしまいます」
「隙間があっては亡霊に見つかってしまう。お前を思ってのことじゃ。我慢せよ」
和尚は念入りに筆を入れた。大まかに書き終わると、今度はその隙間に小さな経を書き込み始めた。筆はわきの下に乗ったかと思えば、まぶたや鼻の先へ飛び、腹の下の方やくるぶしの上にも細やかな文字が書き込まれた。そのうち芳一は堪え切れなくなって、その場にくずおれた。
「も、申し訳ございません。私の忍耐の足りぬために、もう立っているのが難しゅうございます」
「そうか」
そういって和尚は芳一の後ろに回りこんだ。
「おぬしが倒れこんだときに筆が乱れた。書き直さなければならぬ」
そういうと和尚は芳一の脇腹の、まだ乾ききらぬ墨に口を近づけ、一思いに舐める。二度、三度と繰り返し、仏の前でぐったりと倒れこむ芳一からは、忍ぶことのできなかった声が小さく「うっ、うっ」と漏れる。
「声を出してはならぬ。こんな調子では亡霊に見つかってしまうぞ」
「申し訳ございません」
「さて、尻にはまだ書いておらぬな」
そういうと和尚は芳一の腰をぐいと体に寄せ、芳一の尻を広げる。尻子玉を抜かれてはいかん、といって、和尚は芳一の小さな穴の周りに入念に経を書き込む。芳一はもう言葉を上げることもままならず、ただ「はっ、はっ」と荒い、浅い息をするのみであった。横になった芳一の体は全身が淡く紅潮し、真夏の暑さもあってびっしょりと汗をかいている。
尻の穴に書き終え和尚が顔を上げると、芳一の体で二つ、書き残したところを見つけた。耳と、既に破れそうなほど怒張した陰茎である。和尚はゆっくりと芳一の顔に近づき、耳に経を入れ始めた。芳一の息はふう、ふうと大きく、かつ早まっていくが、じっと声を堪えている。
「さあて仕上げじゃ」
そういって和尚は自分の手に鏡文字でさらさらと経を綴り、その手を芳一の魔羅に押し当てて、ぎゅっ、と強く握り締めた。その瞬間、芳一は今まで堪えていた声と息を絞りつくすような声を上げ、自身の絶頂に達してしまった。だくだくと汗を流しながら、長い間精を吐き出した。果てた芳一はその場に倒れこんで、物一つ言わなくなった。その晩、平家の亡霊に見つかることなく朝を向かえ、それからは武者が迎えに来ることもなくなったという。