ソープへ行ったのです

「泡銭が入ったから、ソープへ連れて行ってやる」と先輩が言い出したのが一週間前で、結局ソープへ行くことになった。


その人は優秀な選手で、なぜか金をたんまりと持っていた。諸事情で私に借りがあったとはいえ、下を見ても一万は下らないソープを奢ってもらうというのは、返す恩のレートが違いすぎるのではないかと躊躇っていた。だがどうやら「私がソープに行く」ということを面白がりたいという先輩の気持ちも垣間見え、私は覚悟を決めてソープへ行くことにした。


場所は、聞く人が聞けばすぐに分かる、関西有数の歓楽街。最寄り駅に降りて場所を探していると、初老のタクシー運転手が「兄ちゃんらどうせ**やろ?」と声を掛けてきたので、先輩と顔を見合わせて乗り込んだ。車内で予算を聞かれ二万円だと伝えると、それなら低価格帯だ、あまり下手に選ぶと化物に当たる、予約なしでも写真を見せてくれるところを知っているから、連れて行ってやると言われた。実はこの運転手特定のソープとグルなのではないかと勘繰ったが、それも含め社会勉強だ、化物に当たるのもまた人生と腹をくくり、とあるソープの前に到着。そこは事前のグーグル捌きで調べた結果、ガラの悪い文体しかない風俗情報掲示板で「価格の割には信用できる」と評判の店だった。


先輩と共に入店し、控室のようなところで写真を見せられる。予約もなしに行くとろくなのがいないと言われていたが、写真にはきれいに映った女性が四名と顔が全部モザイクがけされた生身の不発弾が並んでいた。
私は昔から、テレビタレントやモデルの顔を見てそれが整形した顔や画像処理によって修正した顔かどうかを判断する能力があった。この能力がいつごろ備わったのか覚えていないが、整形や修正の程度(どこをどういじったとかではなく、もっと漠然とした「不自然さ」の度合いのようなもの)まで直感的に分かる。
私は嬢の写真を数分眺めた。そして修正の度合いにアタリをつけ、ふたを開ければどの程度まで崩れるかを予想し、それが許容範囲内にありそうな嬢を指名した。先輩は二万円を支払い、「ラーメン食いに行く」と言って店を出た。


控室にあったグラップラー刃牙を読んでしばらくすると、ボーイが戸をあける。私は導かれるままに上の階に上がり、そこで嬢と対面した。写真とはずいぶんと印象は違ったし顔の横幅も明らかに違ったが、許容範囲内であったため、賭けに勝ったと思った。


部屋の三分の二が浴場で残りがベッドと冷蔵庫という部屋に入り、コーラを飲みながら世間話をする。このときに性風俗が初めてであること、童貞であること、そして仮性包茎であることを正直に話した。
彼女いわく、一時間のコースだとマットで一回、ベッドで一回が相場らしい。


私が服を脱ぎ、彼女が服を脱ぎ始める。


このときになって急に頭が冴え始めた。私は緊急時に極度の冷静状態になる人間で、目の前で嬢が全裸になった瞬間スイッチが入った。欲情する以上に、動向を見守って適切な行動を取るための回路が活性化し、勃起どころでなくなった。


体を洗ってもらい、湯船に漬かる体を触られたり舐められたりしていると九割くらい勃起した。「膨張率凄いね〜」「はあ」などの会話を経てマットプレイに移る。タクシーのおっちゃんが「ソープはな、股洗いが最高なんじゃ」と言っていた通り、確かに気持ちいい。ローションを隔てて生身の人間が体を摺り寄せてくることの、皮膚感覚に訴えかけるものは確かに偉大であり、好きな人は好きなのだろう。ただ私はこの時点でいまだに極度の冷静モードから抜けきっておらず、勃起しているものの欲情していないというよくわからない状態にあった。人生初のフェラチオも、確かに気持ちいいものであったがそこまで興奮せず、このあたりでようやく自分の趣味を振り返る。私が興奮するシチュエーションというと、アダルトヴィデオも成人向けコミックもそうなのだがとにかくアマアマの和姦、自分のことを好きな人が求めてくる、というところに興奮しているのであって、商売と割り切った関係であるところこれは最後まで完全に興奮することはできないのではないかとの恐れを抱き始める。


アナルを舐められ背中が仰け反った際に背筋がツッた*1ので、小休止を挟む。


避妊具を着け、マットで一度、騎上位で挿入する。膣へ陰茎を挿入することを狭義の童貞卒業と言うのならば、このときがそのときである。
「自慰で強く握りすぎると、女性の膣で射精できなくなる」というのはよく聞く話で、同様に私も膣の圧力を交尾刺激として受容できなくなっているのではないかとの不安であったのだが、それは意外な形で裏切られた。挿入した瞬間、ペニスに激痛が走ったのである。刺激が強すぎたのではない。あまりに膣の締め付けが強く、ペニスを握りつぶされているかのような感覚を覚えるくらいだったのだ。硬直した海綿体の血液を腹部に逆流させられるかのような力に、控室で読んだグラップラー刃牙の花山薫を思い出す。*2
「クッ… **の膣内(なか)、すげえ締め付け…」みたいなシーンを成人向けコミックで1000回は見たので、男性は挿入時にある程度我慢するものなのかとも思ったが、5分もしないうちに「クッ…」で済まされる程度の痛みでなくなり、懇切にも喘いで頂いている嬢を尻目にセックスは容易に拷問と化した。


素直に締め付けが痛いと伝えると、「ちょっと早いけど、ベッド行こうか」と言われる。
湯船でローションを落としながらいささか落胆する。自分の堪え性がないせいで性行為ができないのだとしたら、これはやはり雄として由々しき事態に決まっている。


「挿入したら普通こんねん痛いもんですか」
「う〜ん、私のが小さいってのもあると思うけど、君のが大きいってのもあると思う」
「いやいやそれはない…」
「いやいや!確かに立ってないときは普通だなって思ったけど、膨張率すごかったよ。コンドームもLサイズできつそうだったし、実際大きいと思う」
「はあ…」


自分のモノのサイズに関しては、これは確かめようがない。僕のと比べたいので、あなたの勃起したペニスを見せてくださいと頼んで、見せてくれる男はそうそういないだろう。
ただこのときは嬢の優しさに感動し、まんまと元気づけられたのだった。


その後は騎上位から正常位、後背位となり、対話と交渉によって徐々に膣の圧力を弱めて頂いた結果、絶頂を迎えた。飲食店では残さず食べるのが客の誠意であるように、ここでは射精することがサービスへの礼なのだと、半ば強迫的になっていたところもある。腰を打ちつけるという手続きが延々と続く、まるで老人が孫とやるテトリスのようなセックスだった。


この経験を経て何か心境の変化があったかと言うと、正直全くない。練習をしなければセックスの勝手は分からないということと、やはり自分が待ち焦がれた相手としなければ気分が盛り上がらないということは学んだ。だが自信がついたり人間のデキが変わるなんてことは、ソープでは今後もないだろう。
童貞か非童貞かの執着も全くないので、自分の肩書きが変わったという意識も特にない。珍しい経験をしたという程度の認識である。


強いて言えば一つ、自分にとってうれしいことは、今後セックスの夢を見ることができるということだ。人間経験のないことは夢にも現れないもので、これまで人を殴る夢とセックスする夢は途中で夢が荒れて目覚めてしまうのであったが、少なくともセックスする夢に関しては、全うできるようになったというわけである。


(性風俗の体験談が非匿名で書かれているものをほとんど読んだことがないのだけど、自分の性行為を書くことは一般的にはとても恥ずかしく非倫理的なことだからなのかもしれない。ただその辺はちょっと分かりません。)

*1:その日は終日重労働して疲れがたまっていたのです

*2:花山薫:束ねたトランプを指の形に引きちぎる握力の持ち主。相手の腕や足を両手で握りしめ内側に圧縮し、行き場を失った血液によって血管や筋肉を破裂させる「握撃」という技を持つ。