男一匹琵琶湖一周徒歩の旅 2日目(高島市南部−マキノ町北部)

〜前回のおさらい〜
男一匹琵琶湖一周徒歩の旅 1日目(瀬田唐橋−高島市南部) - マシバ}クンシッバ
朝に瀬田の唐橋を出発しひたすら北上に次ぐ北上、日暮れに湖で半裸の入浴を終え何も無い道を馬糞を踏みながら北上、「高島市」の看板が見えたあたりで力尽きバス停の待合室で横になった。


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10月4日5時30分、起床。起床とは言ったものの、国道沿いのバス停の待合室は大型トラックが通るたびにガタガタと構造が叫び風が唸る。寒さと騒音で眠れたものではなく、とりあえず横になって一晩の休息をとったような形である。携帯で見るとその日の天気予報は雷雨。地図を確認し、距離的には夕方にマキノに到着して宿を見つける位でちょうど良いだろうと思った。

体を起こしストレッチする。……足が上がらない。下半身と肩周辺が酷い筋肉痛になっていて、特に腿が全く役をなしていない程に損傷している。おまけに関節は宵の内に冷え切って軋み、ここが家なら一日家の中で過ごす決意が容易に固まるのだが、悲しいかな歩くしか道は無い。日の出とともに北上を開始する。

6時ごろに白鬚神社に到着。湖水に突き出した鳥居が朝陽に映える。長寿祈願の神社とあるため、青春真っ只中の俺には関係ねえと粋がってみるが、そのときの私は近くを歩く老人よりも歩みが遅く歯噛みした。白鬚神社を過ぎた頃「瀬田の唐橋から50km」の標識。遠くまで来たもんだ、と思う。

7時ごろには湖西線 近江高島駅の付近に到着。パン屋であんパンと惣菜パンを買って食べる。そういえばそのときが初めて焼きたてのあんパンを食べた瞬間なのだった。焼きたてのあんパンは美味しかった。登校中の児童とすれ違いながら、だいたい湖西線の路線に沿って北へ北へと歩く。そのまま順調に安曇川、新旭を通過、湖周道路まで出て湖を見ながら今津を目指す。

で、ここからがその日で一番精神的に苦しかった。この湖周道路ってのが本当に何も無い。右手には湖、左手には開発してほったらかしと見えるニュータウン、カンカン照りの炎天下、人も通らねば自販機の影も無く今津までの距離も分からない。距離にすれば5キロも無いほどだったのだけど、逞しさを失った足で歩くその道はかなり過酷だった。この頃に薄々感じていたのは、街を遠くに見ながら歩くのと山や田しか見えない所を歩くのとでは疲れが全く違うということだ。あと、滋賀における市街の発展度はだいたい平和堂の有無で分かる。だから遠くに平和堂が見えればその辺には食事も・洗濯・宿泊がどこでもできるくらいの文明があるし、逆に平和堂の無い土地は、歩き回って探さねばそういう場所が無いような土地だ。この平和堂文明指標仮説は2日目の時点では仮説に過ぎなかったのだけど、その後の日程でも概ね妥当なように感じたし、滋賀に来たら平和堂を探すのが良い。


12時ごろ、ようやく今津に到着。松の並ぶ浜が美しい、綺麗な街だった。今津には竹生島行きの観光船港があり、ただ単に琵琶湖一周をするならここで竹生島へ渡るのも一興だったろう。

今津はなかなかに発展した街だった。期待通りマクドナルドがあったので入店。ビッグマックセットを注文、申し訳程度の疲労回復になるようドリンクはオレンジジュースにする。店員に断って携帯電話を充電する。店内は昼下がりの子連れ主婦で溢れ返っていて、場違い感がとんでもないことになっていた。涼しい店内で腹も膨れ、後頭部には外から差込む日が当たって暖かく、急激に眠気が襲ってきた。予報では雷雨だったが、本当に降るのだろうか…… そんなことを考えながら、陽気の中で私はうたた寝をしてしまった。

40分後、口を間抜けに開けて寝ていた私が目を覚ますと、外はすわ終末かというレベルの豪雷雨になっていた。

ふざけるな!

とりあえず携帯を引っこ抜いてマックを後にする。時間は13時。宿を見るにはまだ早い。晴天の霹靂とはこのこととばかりに絶望的な気分になりながら、それでも進むしかないのがこの旅なのだと自分に言い聞かせ折り畳み傘を開き北上を再開。そんでまたこっから先の道中が何も無いんだなこれが。いや飲食店があるにはあるのだが、どれもカフェだのスイーツだの、びしょ濡れの旅人には心底ムカつくような趣味の店が数百メートルおきに散在するだけ。足の裏にマメができたためテーピングで保護し、歩く。風は強く傘を差しても濡れる服、濡れる荷物、そして冷える体。この時この旅で一回目の「俺は一体何やってるんだ?」が出た。


マキノ町に到着したのは16時ごろ。とりあえずここで宿を探そうかと思ったのだが、もう歩き回って宿を探す気が無かったので、「北部の道の駅まで歩いて、道中に宿があればラッキー」という感じで歩いた。するとマキノ駅から1キロ強のところに「海津天神社ユースホステル」の看板が!よっしゃ、ここしかない!と意気込んで中に入った。

宿泊は可能とのことだったので受付を済ませる。神社の横に建てられた宿泊施設のようだった。その日の夕食は作れないから、どこかで食べてきてくださいと言われたのだが、最寄のコンビニまで往復3キロほどあったので、その日の夕食は諦めることにした。それだけ歩く気力も肉体も無かった。

田舎の社員寮(っていうと失礼だけど)を思わせるような木造の部屋に通される。二階の部屋だったのだが、階段を上がるのも一苦労で管理人の人にも少し笑われた。自分でも笑うしかないくらい下半身が疲弊していた。部屋に入って布団を整え服を干し荷物を整理する。テレビを点けるとダウンタウンが喋っていたので、大浴場が沸く時間まで体を横にして観賞した。


5時になって風呂に入ろうと階段を下りると、宿の奥さんに会った。その時に、恐らく私の体のガタガタぶりを心配してくれたのだろう、「近くのコンビニまでくらいなら夫が車で送迎しますけど、どうですか?」と言って頂いた。

「ホンマですか!」

二つ返事で送迎をお願いし、人の優しさに感謝しながら大浴場で冷えた身体を温めた。

6時ごろに1.5キロほど離れたところのセブンイレブンまで管理人さんに送ってもらった。車内では私が徒歩で琵琶湖一周をしていることとか、昔はマキノ町がスキーで栄えたけど最近そうでもないという話とか、そういう他愛も無い話をした。コンビニでは中華弁当とサラダと栄養ドリンクを買って帰った。

同日は何やら古武術の団体が研修のため同じユースホステルに泊まっていたらしく、その日は食堂で宴会をやっていたらしい。宴の声を聞きながら私は部屋で一人、中華弁当とサラダを食べ栄養ドリンクを流し込んだ。毛布にくるまってテレビを見ている内にその日は寝た。蛇の夢を見た。


2日目の歩行距離は、だいたい40キロくらいだろうか。計測していないのでよく分からない。

次回は猛獣に怯えながら長浜市街を目指します。