男一匹琵琶湖一周徒歩の旅 3日目(マキノ町北部−長浜市)

〜前回のおさらい〜
男一匹琵琶湖一周徒歩の旅 1日目(瀬田唐橋−高島市南部) - マシバ}クンシッバ
男一匹琵琶湖一周徒歩の旅 2日目(高島市南部−マキノ町北部) - マシバ}クンシッバ
軋む骨、哭く肉。残暑の湖周道路には自販機の影も人の気配もない。朦朧と歩き、たどり着いた今津のマクドナルドでうたた寝をすれば一転外は雷雨となる。肉打つ雨、骨冷やす風に追われながら偶然見つけたマキノ町のユースホステルで一泊。管理人の至れり尽くせりのもてなしに心と身体を温めながら毛布に包まれて眠ったのであった。


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10月5日。6時ごろに一度目が覚める。充電していた携帯電話を取ろうと身体を起こしてみるが、腰から下がとにかく鈍く、重く、痛い。足腰を痛めたことはこれまでの人生でなかったのだが、流石にこんな無茶をすれば祟るものだと感心した。メールの確認をしてもう一度眠る。朝食は8時に完成の予定だ。

次に目を覚ますと9時前。慌てて着替え、食堂へ行こうと部屋を出ようとしたところで、ちょうど声を掛けに来た管理人の人と出くわす。

6時に起きたときは「こりゃ、今日でリタイアなんてことになるかもしれん…」と思うほど身体が痛かったのだが、二度寝の後に以外にも身体は軽くなった。昨日は赤子のごとく這うように一段一段降りなければならなかった階段も、今日はせいぜい還暦のような足取りまで回復した。それを回復と呼ぶのかは微妙なところではあるが、格段に良くなった。偶然にも良い休息を取れたことと、丈夫な身体に産んでくれた幸運に感謝する。

朝食は白米、海苔、ハムエッグ、昆布の佃煮、温野菜、味噌汁。テレビでは篠山紀信の写真展かなにかが映っていた。


その日たどるルートの候補は2つあった。

ひとつは赤線で示した、山中を通る国道303号線を通るルート。最短距離で行けるがトンネルなどもあり歩道が存在する確証はない。もうひとつは緑線で示したルートだが、距離は前者に比べて1.5倍はある。確実に安全なのは後者だが、身体の負担などを考えれば国道303号線を通りたいところ……など考えていたら、緑のルート上にこんなマークが。

何だこれコエーよ。「辻斬り注意」か何か?

ということで303号線を通過するルートを取ることに。(後に「冬季通行止め」のマークと判明)

9時30分にユースホステルを出発。管理人さんにお礼を述べて国道161号線を北上。「敦賀まで**km」の文字に、とうとうここまで来たか、と思う。追坂峠の道の駅でりんごパンと惣菜パンを購入。自動販売機で飲むヨーグルトを飲み、休憩もそこそこに北上、奥琵琶トンネルへ。予想に反して歩道の広い安全なところだった。よく考えればこのルートは琵琶湖一周のサイクルロードなんだから、危険なはずが無かったのだけど。

奥琵琶トンネルを抜け長い下り坂を抜けると山間の小さな集落が見える。ここに住んでいる人たちは、普段どこで買い物をしているんだろう、と思うような、田舎の中の田舎である。このあたりで、少し小腹もすいてきたしパンを食べるか、と思っていると、前方から走ってきたパトカーが私のすぐ横で急停止する。やましいことは何も無いのだが、警察に目をつけられるのはどうも身構えてしまう。
(え、何、俺何か悪い事したっけ?)
(もしかしてこの道って歩行者通行禁止?)
パトカーのドアガラスが開く。


「あのー30分ぐらい前にね、ここを熊が通過したっていう通報がありましてね」


なんだ熊かよ……熊!?


「歌とか歌いながら気ぃつけて歩いてくださいね」


熊の脅威に晒されるのは初めてだったのだが、「外国でニンジャが出てパニックになる人は多分こういう感じなんだろうな」という恐怖が全身を駆けた。出くわすことは無いだろうが、万一遭遇すれば無事には済まないのである。こうなっては大きな鶏照焼の乗った惣菜パンなど食べてる場合ではない。私はとっさに「森のくまさん」を歌った。茂みに向かって般若心経とか「ワオ!」とか「俺のバックにはイルミナティがついてる」とか叫びながら12時ごろ永原に到着。歩きつつパンを食べ水を飲み、止まらずに303号線を歩く。

13時ごろ、ついに琵琶湖北端であるところの塩津に到着。とうとう中間地点である。ここからは木ノ本を目指し、北陸本線の路線を目印に歩くことにする。


途中賤ヶ岳(しずがたけ)を通過したのだが、この賤ヶ岳トンネルってのがなんとも不快で不気味なトンネルだったので書いておく。まず歩道(側道)が狭い。実際、自転車の場合ここが危険ポイントであるようなので、自転車で一周する方は旧道を抜けるのが良いらしい。次に臭い。動物の死臭とも焼臭ともつかぬ不愉快な匂いがする。そして最後に壁面がありえないほど汚い。トンネルを抜ける途中、気づくと腕が真っ黒になっていたのだが、どうやら壁面の煤が付着したらしい。試しに指でなぞると、グレーの壁面の下から真っ白なコンクリートが露わになって、代わりに指がどす黒く汚れ、ゾッとした。臭いと煤から推測するに最近トンネル火災でも起きたのかと思ったが、そうでもないらしい。大体「賤ヶ岳」って名前が怖いんだよ。鬼でも棲んでそうな字面だ。


それでここから長浜市外3キロ手前ほどまで、ひたすらに歩いた。脚という器官はここまで重たかったのかと驚きながら歩く。膝も少し痛い。スーパーで一房80円のバナナを購入し、コインランドリーで昨日の服を洗濯する。長浜市街地で銭湯にでも入ろうかと思ったのだが、20時まで歩いてもたどり着けなかったので、あと数キロというところで適当なバス停の待合室を見つけて中に入る。濡れタオルで身体を拭き、例のごとく硬いベンチに無理な姿勢で寝転ぶ。外にはコンビニの明かりが煌々とし文明の不眠が疲弊した身体に伝染する。気温は1日目と比べ物にならないくらい低い。何もかもが休息を与えてくれぬまま3日目が終了した。


3日目の歩行距離は、地図を見て測ってみたらなんだかんだ50キロくらいあった。バカじゃないのか。

次回、ファックユーひこにゃん!彦根に安息なし。